前回の記事では、「人材確保等支援助成金(テレワークコース)」を活用したテレワーク制度の整備について解説しました。
働き方の多様化が進む中、企業の業務効率化や生産性向上に向けた取り組みは、単にテレワークの導入にとどまりません。ビジネス環境が大きく変化する中、企業の成長と持続可能性を高めるためには、デジタル化の推進が不可欠です。そして、その動きと並行して、従業員の働き方も多様化の一途を辿っており、柔軟な働き方への対応は企業にとって重要な課題となっています。
今回から2回にわたり、IT導入補助金(デジタル化基盤導入類型)について解説していきます。
IT導入補助金が後押しするテレワーク環境の整備
今回解説するIT導入補助金(デジタル化基盤導入類型)は、まさにこのデジタル化を強力に後押しする制度です。インボイス制度への対応はもちろんのこと、生産性向上、業務効率化、売上増加といった企業の根幹に関わる課題解決を支援します。
IT導入補助金でテレワーク化の実現に貢献
そして、見逃せないポイントとして、このIT導入補助金が、企業のテレワーク導入を間接的に支援する側面も持ち合わせているという点です。直接的な目的ではありませんが、補助対象となるITツールの中には、テレワーク環境の構築と運用に不可欠なものが数多く含まれています。
例えば、オフィスにいなくてもスムーズなコミュニケーションを実現するチャットツールやWeb会議システム、離れた場所にいるメンバーの業務進捗を把握・管理するためのタスク管理ツールやプロジェクト管理ツール、そして、セキュリティを確保しながら安全にリモートアクセスするためのセキュリティ対策ソフトなどが挙げられます。これらのツール導入をIT導入補助金が支援することで、企業はテレワーク導入の初期投資を抑え、スムーズな移行を進めることが可能になります。
テレワークを支えるITツールの力
さらに、ITツールによる業務効率化は、テレワークの実施をより効果的なものにします。定型業務の自動化や情報共有の迅速化は、時間や場所にとらわれない働き方を実現します。そして、従業員のワークライフバランス向上にも貢献します。結果として、テレワークという働き方が、単なる制度ではなく、生産性向上と従業員満足度向上に繋がる戦略的な選択肢となり得るのです。
それでは、具体的な制度の概要と活用方法を見ていきましょう。
IT導入補助金(デジタル化基盤導入類型)とは?
業務の効率化や生産性向上を目指して、企業のデジタル化を推進する「IT導入補助金」。特に デジタル化基盤導入類型 は、業務プロセスの見直しや、ITツールの導入を支援することで、中小企業や小規模事業者が競争力を高めることを目指しています。
例えば、日々の会計処理や販売管理、顧客対応など、これまで手作業で行っていた業務がITツールの活用によって自動化されれば、時間の削減やミスの防止が期待できます。また、リアルタイムでのデータ管理が可能になることで、経営判断のスピードも格段に上がるでしょう。
「デジタル化を進めたいけど、コストが不安…」
そんな悩みを持つ事業者にとって、このIT導入補助金は強力なサポートになります。導入にかかるコストの一部を国が負担してくれるため、思い切った設備投資も実現しやすくなります。
補助対象となるITツールとは?
IT導入補助金(デジタル化基盤導入類型)の魅力の一つは、幅広いITツールが補助対象になる点です。具体的には、以下のような業務効率化を実現するツールが対象です。
会計ソフト(会計業務の効率化を図りたい企業など)
日々の経理処理を効率化し、リアルタイムでの財務状況の把握が可能になります。
- 弥生会計
- マネーフォワード
- freee など
販売管理システム(受注から出荷までの業務を効率化したい企業など)
受注・出荷・在庫の管理を一元化することで、業務の効率化とスピードアップが期待できます。
- SMILE V 販売
- OBC 商奉行 など
在庫管理システム(複数拠点の在庫管理をしたい企業など)
商品在庫のデータをリアルタイムで管理し、過不足の防止や出荷ミスの削減に貢献します。
- 楽楽販売
- Zoho Inventory など
顧客管理システム(CRM)(顧客情報を一元管理し、営業活動を効率化したい企業など)
顧客の情報を一元管理し、営業活動やカスタマーサポートを効率化します。
- Salesforce
- HubSpot
- Zoho CRM など
クラウドストレージ(社内外でのデータ共有をスムーズにしたい企業など)
社内外でのデータ共有が簡単になり、リモートワークの生産性も向上します。
- Google Drive
- Dropbox
- OneDrive など
勤怠管理(従業員の出退勤や勤務時間を正確に管理したい企業など)・給与計算ソフト(給与計算を効率化し、ミスを防ぎたい企業など)
従業員の出退勤や給与計算の手間を削減し、正確な記録が行えます。
- KING OF TIME
- ジョブカン
- SmartHR など
ECサイト構築プラットフォーム(自社の商品をオンラインで販売したい企業など)
自社の商品をオンラインで販売するためのサイト構築が簡単に行えます。
- Shopify
- BASE
- カラーミーショップ など
電子契約システム(契約手続きをペーパーレス化し、業務を効率化したい企業など)
紙の契約書をなくし、契約手続きをスムーズに進められます。
- クラウドサイン
- GMO電子契約サービス など
セキュリティ対策関連のITツール
企業の情報セキュリティを強化し、データ漏洩のリスクを軽減するツールです。
- ウイルスバスター
- ESET
- Symantec
これらのITツールは、単に業務の効率化を実現させるだけではありません。データの一元管理や正確な情報共有も実現します。
「導入したいけどコストが…」と感じている方にとって、この補助金はまさに理想的なサポートです。
補助率・補助額
IT導入補助金(デジタル化基盤導入類型)の魅力は、どれくらいの費用をサポートしてくれるかという点でもあります。実際にどれくらいの金額が補助されるのでしょうか。そしてどのような条件で助成を受けられるのかについて見ていきましょう。
補助枠の種類と概要
IT導入補助金(デジタル化基盤導入類型)は、大きく分けて 通常枠 と セキュリティ対策推進枠 の2つの枠に分かれています。それぞれの枠では、補助対象となるITツールや補助額が異なり、事業のニーズに応じた活用が可能です。
- 通常枠 では、業務効率化を目的としたITツール(会計ソフトや販売管理システムなど)の導入を支援し、最大 450万円 の補助が受けられます。
- セキュリティ対策推進枠 では、セキュリティ関連ツールの導入を支援し、最大 100万円 の補助が受けられます。
この2つの枠を理解し、どちらが自社のニーズに適しているかを見極めることが、IT導入補助金を効果的に活用するための第一歩となります。
なお、通常枠とセキュリティ対策推進枠の2つの枠を同時に申請することが可能です。
通常枠
まずは、一般的な枠組みである「通常枠」からご解説します。
ソフトウェア・クラウド利用費
ITツール導入のコストは、特にソフトウェアやクラウドサービスの利用費用が大きくなります。最大 3年間 にわたる利用費が補助の対象となります。
- 補助率:1/2~2/3(対象経費の半分以上を補助)
- 補助上限:最大 450万円
例えば600万円のERPシステムの導入した場合、600万円×2/3=400万円の補助金になります。
ハードウェア(PC・タブレット等)
ソフトウェアだけでなく、PCやタブレットなどのハードウェアも対象となります。これにより、ITツールの導入に必要な機器を整えることができます。
- 補助率:1/2(購入金額の半分を補助)
- 補助上限:10万円
たとえば、30万円のPCを購入した場合、補助金は1/2の額の15万円。ではなく補助上限の10万円になります。従業員の業務環境を整備するために必要な機器を手に入れやすくなるので、実際の導入を検討している企業にとっては嬉しいポイントです。
セキュリティ対策推進枠
また、企業のセキュリティ強化を目的とした「セキュリティ対策推進枠」も設けられています。情報漏洩や不正アクセスのリスクを軽減するためのツール導入が補助対象です。
セキュリティ関連ツール導入
セキュリティ関連のツールは、企業のデジタル化には欠かせない要素です。例えば、ウイルス対策ソフトやファイアウォール、セキュリティ監視ツールなどが該当します。
- 補助率:2/3(対象経費の2/3を補助)
- 補助上限:100万円
セキュリティ対策は、単なるコスト削減だけでありません。事業継続の観点でも非常に重要な投資です。例えば、50万円のセキュリティソフトを導入した場合、最大で 33万円 の補助金が受けられることになります。
これらの補助率・補助額を踏まえると、IT導入補助金は非常に魅力的な支援制度だと言えます。特に、ITツール導入を考えているがコストがネックになっている企業にとっては、最大限に活用できるチャンスと言えるでしょう。
テレワークの体制だけを整えれば十分だと考えている企業様には少しハードルが高いかもしれません。しかし、IT導入の一環としてテレワークを捉えている企業様には最適な補助金・助成金です。
次回の記事では、申請の流れ、具体的な事例等を詳しく解説していく予定です。手続きのポイントや注意点も整理して、スムーズな申請をサポートできる内容に仕上げていきます。引き続きお楽しみにしてください!
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